622 RC回路の重要な概念・原理
本実験の作業そのものは単純なものだが,背景となる理論は,完成された緻密なものである.
ここでは,その理論的概念について簡単に導入しておく.電気回路の基礎理論は電子工学においてはきわめて重要である.
※実験では走りながら考える.実験しながら理論を吸収する.しかし,スタートするにはある程度の理論が必要
■【過渡応答】(transient response)
過渡現象/過渡状態とは,信号状態が急激に変化したとき,電流や電圧が一定の定常状態(steady state)に落ち着くまでに生じる,短時間だが不安定な状態のことである.
回路の過渡応答特性とは,パルス波のように過渡現象を生じる急激な電圧変化を与えた時の回路の出力特性のことである(図622.1).
入力信号に対して過渡期間が長い,つまり過渡現象の収束に時間がかかる時,「過渡応答特性が緩い/鈍い」という言い方をする.
この過渡特性の鈍さ/鋭さを端的に示す値がある.それが次に述べる時定数$ \tau(タウ)である.
https://gyazo.com/aa490faecfd8399974f5acae7e2dfee4
図622.1 過渡応答特性と時定数
■【時定数$ \tau】(time constant tau)
時定数(じていすう)$ \tauを平たく言うと「ある値が次の値に移る際の経時変化のゆるさ加減」である.
※$ \tauは$ Tではなくギリシャ文字の”タウ”
$ RC回路では図622.1 で,「$ CR(\tau)」と示した時間が時定数$ \tauである.
★$ \tauの特徴を挙げておく.
(a)$ \tau=到達電圧E0の0.368倍に達するまでに要する時間.
※67.1/e=0.3678794411....eは自然対数の底(Napier’sconstant:ネイピア数).無理数だから桁は無限
(b)理論式は指数/対数の1階線形微分方程式.
(c)$ RC回路では$ \tau=C \times R.($ CRがなぜ時間か?)
(d)$ \tauの値が大きい⇔「反応が鈍い」,小さい⇔「反応が鋭い」.
★$ \tauは電気回路の過渡特性だけではなく,物理・自然・社会現象一般に広く共通する概念である.
※放射性元素の半減期(原子物理学),生体における神経伝達係数(神経生物学),人口推移の推定(社会統計学)など
電気回路以外の工学分野においても自動制御や熱電装置,励磁制御系などの基礎概念である.
※他の分野での使われ方についてもぜひ調べて理解しておこう.
←基本概念を他の分野に転用・応用して理解できる能力をセンスと呼ぶ
◎参考
Geogebraというツールを使って,時定数(逓減)をうまくシミュレートしている教材がある.
https://gyazo.com/8d7d6a70f0c7cf64cc9dc8c43752a68c
図622.2 逓減カーブの時定数シミュレーション
■【周波数応答】(frequency response)
ある回路に正弦波信号を印加して周波数を変化させた時の信号出力の様子を総じて周波数応答特性(周波数特性,略してf特)という.
周波数応答特性は,入力正弦波の周波数を広範囲に変化させて観測する.
※このためグラフは対数軸になる
図A.4に$ RC回路の一般的なf特グラフを示す.
※$ LCR回路のf特とは異なるので注意
https://gyazo.com/b3f33e41f2f25cc29bb0b73b8298b05b
図622.3 RC回路の周波数応答特性(横軸対数)
★$ f特グラフはオーディオ機器の特性を示すのによく使われる.
※下図は有名なSURE社のダイナミックマイクSM58の$ f特.
他にもマイク,アンプ,スピーカなどの仕様を調べてみよう
https://gyazo.com/f3b106ca4b5cab5e5de9b09affc46529
図622.4 SM58の$ f特
過渡特性の時定数と同様,周波数書応答特性も回路の$ L,C,R成分によって決定される.これに関わる重要な概念が,次に示すインピーダンス$ Zと,回路の特性を端的に表す値である,遮断周波数$ f_cである.
■【インピーダンス$ Z(impedance)】
インピーダンスとは交流回路における抵抗成分である.
交流信号は電圧が常時変動している.このため,直流では電気を通さないコンデンサC や直流抵抗が大きくないコイルLにおいて,直流とはまったく異なる作用が生じる.
その結果「回路全体として電気の通りにくさ」が生じる.これが交流回路のインピーダンス$ Zである.
※交流伝送線路では媒体である導線の特性インピーダンスを扱う.
← このことは「伝送線路実験」で学ぶ
回路設計や性能測定においては,入力インピーダンス・出力インピーダンス・内部インピーダンスなどと使い分ける.
※回路に対する切口が異なる.各自調査しておこう
電気電子回路や通信線路を設計・性能測定する場合,インピーダンスの計算は不可避である.
それには複素数を用いた「信号の位相理論」の理解・応用が必要である.
※なぜ交流理論に複素数が使われるか?その経緯・理由・目的を調べよう
■【遮断周波数$ f_c(cut-off frequency)】
「遮断」とは回路として動作しなくなる,または信号として意味をなさなくなるという意味である.
共振しない電気回路のf特は概ね,右肩下がりの曲線を示す.
この時,回路の出力電力が入力に対して50%となる周波数を遮断周波数$ f_cと呼ぶ.
電力の1/2なので,信号電圧として考えると入力電圧の$ 1/\sqrt{2}になる. ← なぜか?
これは初期投入電圧$ E_0から$ -3dB低下とほぼ等しい.
$ 20log_{10}(1/\sqrt{2})\ = -3.01029995664 \fallingdotseq -3 dB
この時,位相特性は$ {\pi}/{4} = 45^\circのずれを生じる.位相の式においては実部の絶対値と虚部の絶対値が等しくなる.
https://gyazo.com/b3f33e41f2f25cc29bb0b73b8298b05b
図622.5 $ RC回路の周波数応答特性(再掲)
以上.
2024/4/8